『ゾンビ料理人』 脚本 暫定版

おはよう、こんにちは、こんばんは。坂本です。
今回は『ゾンビ料理人』の脚本の暫定版をアップしたいと思います。


△主な登場人物

《ゾンビ料理人》
元々はいたって普通のゾンビであったが、あることをきっかけに、人間をただ食べるだけでなく調理してから食べることに目覚める。料理の腕を上げていくとともに知性も身につけ始め、何匹かのゾンビを手下に従えている。きわめて好戦的で、戦略を練ることにも長けている。頑固で荒っぽい。フライパンと包丁の扱いに手馴れており、全身を惜しみなく使って人肉料理をつくる。しばしば手下のゾンビに豪華な人肉料理をふるまう。ゾンビ界ではたいへんな美食ゾンビとしても有名である。

《サイトウ ケンジ》
三人組の中のひとり。
男らしく、リーダーシップのある人物。少し強引なところもあるが、アリモリとコバヤシの二人にかなり信頼されている。お酒が好きで、酔うと危ない。ゾンビに溢れた世界であっても、いざとなればひとりだけで生きていけるタイプ。武器としてGerber (ガーバー)のナイフを愛用している。コバヤシにイライラすることが多く、口論することもよくあるが、その都度ちゃんと反省することのできる人物。やや口汚いところがある。

《アリモリ リョウ》
三人組の中のひとり。
いわゆる映画オタク。ゾンビやサバイバル生活に関する膨大な知識を持っている。マックス・ブルックスが書いた『The Zombie Survival Guide』が愛読書で、いつも携帯している。冷静な人物で、サイトウとコバヤシがいさかいになっても落ち着いて仲裁することができる。武器はおお木づちを所有。いつもサイトウとコンビになってゾンビを蹴散らし、コバヤシを守る、というような戦闘スタイルになる。いざという時のために、手裏剣を五枚ほど隠し持っている。

《コバヤシ ショウタ》
三人組の中のひとり。
ゾンビに誘拐されることになる人物。なぜ今まで生き残ってこれたのか不思議なくらいに臆病な性格。サイトウとアリモリの金魚の糞である。が、料理と食料調達の技術に長けているので、ふたりには重宝されている。武器に金属バットとおなべのふた(盾のかわり)を持っているが、ほとんど使われた形跡がない。この日はそんな彼が初めてひとりで見張りをすることを頼まれるのだが・・・・・・。

《ホンゴウ タケオ》
ゾンビ料理人の食材として、廃墟に監禁されていた人間のひとり。やたらと顔の造形と眉毛が濃い。彼も寝込みを襲われ、廃墟まで連れ去られたのだという。びっくりするぐらい行動的な人物。ゾンビたちに対する人間側のレジスタンスを気取っていて、スピルバーグの『宇宙戦争』に出てくるハーラン・オグルビーや、『ゾンビ革命-フアン・オブ・ザ・デッド-』の革命おじさん(←すぐ死ぬ)のように、ずけずけと出しゃばった挙句惨殺されるタイプ。藤原竜也ばりに言動がいちいちクドい。お酒が大好き。武器はメリケンサック。ゾンビの頭を己のこぶしで殴り潰すことに快感を覚えるのだという(本人談)。

○オープニング  廃墟(2〜3分)

ここは灰色と死臭に満ちた終末時代の日本。死者が歩く世界が日常となり、今や世の趨勢は人類にではなく、ゾンビたちのものとなりつつあった・・・・・・。

薄汚い廃墟の中、一匹のゾンビが人間の肉を貪っていた。元々は一人の人間が生活をしていた場所のようだが、今ではそのあるじも死霊のえじきとなっている。激しく、汚らしく、人肉にむしゃぶりつくゾンビ。
飛び跳ねた人肉の一部が、まだ簡易コンロの火で熱せられているフライパンの上に落ちる。ここに住んでいた人間は、ちょうど食事の最中に襲われたのだった。
ゾンビ料理人「オオゥ・・・・・・?」
次第に人肉はこんがりといい具合に焼け、ゾンビは頭からその焼肉に喰らいつく。一口かじる。
ゾンビ料理人「オアアァ!」
ゾンビ料理人、ハッとしたように何かを感じ、目を見開く(鼻先が焦げている)。
これはうまい!『2001年宇宙の旅』の骨→核兵器を搭載した宇宙船へつながるシーンと同じ曲(『ツァラトゥストラはかく語りき』)が流れ始める。
次々と人肉を火の中へと放り込むゾンビ料理人。徐々にスローモーションになっていく。次の瞬間、高々と宙を舞った人肉が例のクラシック曲とともに、洗練された人肉料理へと変化する。いつの間にやら大勢のゾンビが人肉料理を取り囲んでいて、思い思いに食事に興じている場面へ時間が飛ぶ。
そしてクラシック曲のフィナーレに近づくと、『ゾンビ料理人』のロゴが入る。曲の切りの悪いところでスパッと次のカット・曲に切り替わる。

○しげみ、野営地(2分)

(BGM)へんてこなカントリーミュージック
移動しながらの生活を続ける3人組がいた。彼らは金属バットやおお木づち、ナイフなどの武器を持っている。今は夜中の10時を回るころで、今日はここで野宿をしようということになった。
サイトウ「じゃあ、今日はこの辺で休むとするか・・・・・・」
アリモリ「だね。明日はまた早く行動しよう」
サイトウ「ショウタ、めし!」
コバヤシ「はーい、ちょっと待ってね」
落ち葉を集めるコバヤシ。さらにスプレー缶とマッチを使ったお手製火炎放射器によって焚き火をこしらえる。
サイトウ「器用なもんだな。火傷すんなよ」
コバヤシ「大丈夫だよ〜。いつもやってるし」
コバヤシ、銀杏や栗などといった木の実を焚き火に放り込む。また、どこからともなく串に刺さった生肉を取り出すコバヤシ。それを火であぶり、ほどよく焼けたところで塩をかけ、サイトウとアリモリの二人に差し出す。
コバヤシ「はい、ケンジくん!」
サイトウ「さんきゅ〜。(一口食べる)うん、うまい」
アリモリ「(渡された焼肉をじっと見つめ)ショウタ、今日のは何の肉なの?」
コバヤシ「あ、これ? 今日のはハトだよ。焼き鳥!」
サイトウ「いつもいつもよく調達してくるよな〜、色んないきもんを。ま、このスキルがなかったら完全に足手まといだけどな、ショウタは」
アリモリ「まあまあ、そう言うなってケンジ」
コバヤシ「たはは(苦笑い)」
三人を引きで捉えたカットに変わる。食事も終わり、少し時間が経った様子を映す(木の実の殻を手で弄んでいたりして)。
サイトウ「・・・・・・さて、と。今夜は誰から見張りをするか」
アリモリ「いつも通り俺とケンジのローテーションでいいでしょ。ショウタはまだまだ不安だしさ」
サイトウとアリモリ、コバヤシに目をやる。
コバヤシ「あ、うん。ぼくもまだまだ不安かな」
サイトウ「だけどよー、いい加減そういうこともできないと困るぜ。もし俺とリョウが死んだらお前、どうするんだよ? そん時は一緒に死ぬか? あ?」
サイトウ、手に持っているナイフの刃先をコバヤシに向ける。
コバヤシ「で、でも、ぼくじゃああいつらを追い払えないよ・・・・・・」
サイトウ「だからまずは見張りから始めて、少しずつ慣れていけってーの。あいつらが来たら、俺らを起こしてくれればいいから。戦わなくても」
コバヤシ「うーん、どうかな・・・・・・?」
アリモリ「慣れるって意味でもさ。そろそろ見張りの仕事も覚えてほしいんだ。生き残るために、大事な役割だし。とりあえず二時間だけ、な?」
コバヤシ「・・・・・・うん。わかった。やってみるよ」
サイトウ「じゃあ決まりだな! ショウタにも見張りができるようになれば、俺たちも色々と楽になるんだ。それじゃ、頼むぜ」
コバヤシ「う、ん。がんばる・・・・・・」
コバヤシ、しばらくは起きて見張っているのだが、途中から立ったまま眠ってしまう。そしてこのタイミングを見計らったかのように、二体のゾンビがコバヤシの元に現れる。片方のゾンビがコバヤシにかぶりつこうとするが、もう片方のゾンビがそれをたしなめる。この二体のゾンビは、眠った状態のコバヤシをどこかへと連れ去っていってしまう。

○廃墟(1分)

眠っていたコバヤシは、突如床の上に放り出され、その衝撃で目を覚ます。ここはゾンビ料理人のアジト。コバヤシはゾンビ料理人の食材としてここまで運び込まれてきたのだった。部屋の中を見渡すと、どうやら完全に閉じ込められているのか、明かりもほとんどなく薄暗い。よく見るとひとりの人影がある。
コバヤシ「あれ? なにここ? え?」
ホンゴウ「また一人、か・・・・・・」
コバヤシ「あなたは? ここは一体・・・・・・?」
ホンゴウ「俺はホンゴウ。ホンゴウタケオだ。俺が知っているのは、ここへはあいつらに連れて来られたということだけだ」
コバヤシ「あの、ぼくはコバヤシショウタです。よろしくお願いします。すいません、あいつらとは、誰のことですか?」
ホンゴウ「わからないのか? あの忌々しい死人どもに決まってるだろうが。君はどうやってここまで連れて来られた?」
コバヤシ「わかりません・・・・・・。その、見張りをしていて、たぶん途中で寝ちゃって、そしたら、ここに・・・・・・」
ホンゴウ「よくそれで生き残ってこれたな」
コバヤシ「みんなにもよく言われます」
ホンゴウ「・・・・・・まあ、俺も人のことは言えんがな。ところで、仲間がいるのか」
コバヤシ「はい。でも、なんであいつらはぼくたちをすぐに食べなかったんでしょうか? どういうことなんだろ・・・・・・」
ホンゴウ「それは知らん。何にせよいいようにはされないだろう。・・・・・・とにかく今は、どうやってここから出るかを考えろ」
コバヤシ「そう、ですね・・・・・・」

○しげみ、野営地(2分)

眠っているコバヤシとアリモリの元にも、何体かのゾンビが襲ってくる。サイトウはゾンビが発する物音に気づき、ぎりぎりのところで目を覚ます。
サイトウ「ん・・・・・・。あ! おい! リョウ! 起きろ!(ナイフで一体始末する) くそっ!」
アリモリ「へ・・・・・・(目をしょぼしょぼさせ)。まさか!」
サイトウ「(ショウタのことは)考えるな! まずはこいつらだ!」
ゾンビたちの口には頭を一周するように布が巻かれており、噛みつくことができず、全力で捕まえようとしてくる。しかしサイトウとアリモリは、あっさりと周りのゾンビたちを始末する。
サイトウ「なんなんだ、こいつら?」
アリモリ「ショウタ! くそっ! やっぱりまだ早かったんだ・・・・・・」
サイトウとアリモリ、コバヤシが見張りをしていた地点を見据える。金属バットとお鍋のふただけがその場に落ちている。それを拾うサイトウ。
サイトウ「死体どころか、血の跡すらないぞ」
アリモリ「ケンジ、気づいたか?」
サイトウ「なにを?」
アリモリ「あいつらの動きに」
サイトウ「動きって、俺らを食いに来たんだろ」
アリモリ「違う。こいつらの口元を見てもわかるけど、どうも俺らを食べようって感じじゃなかった」
サイトウ「ああ、そうか。そうだった。じゃあこいつらは一体(先程倒したゾンビをナイフで指し示す)何しにきたってんだ?」
アリモリ「たぶんだけど・・・・・・、俺らをどこかに運ぼうとしていたのかも・・・・・・」
サイトウ「どうして? 何のために?」
アリモリ「さぁ・・・・・・。でも、あれ(地面を指差す)」
サイトウ「ん?」
地面にはずるずると引きずったような足跡と謎の黒い液体が残っている。
アリモリ「あれをたどって行けば、何かわかるかもね」
サイトウ「・・・・・・だな。・・・・・・ショウタ、生きてろよ・・・・・・」

○廃墟(3分)

コバヤシ、部屋に一つだけある扉を恐る恐る確かめる。扉をわずかに開き、少し離れたところにゾンビが一体ウロウロしていることを確認する。
コバヤシ「(ここから先、コバヤシはしばらく小声で)ホンゴウさん、この扉、開いてるみたいです」
ホンゴウ「空気が・・・・・・騒がしいな・・・・・・」
コバヤシ「どういう、ことですか?」
ホンゴウ「いや、な、俺の本能がざわついているだけかもしれん・・・・・・」
コバヤシ「はあ・・・・・・。それより、ちょっとこっちに来てください」
ホンゴウ「どうした!」
コバヤシと一緒になって、ホンゴウも扉の間からその先を覗く。
ホンゴウ「やはりいるか・・・・・・」
ホンゴウ「おい、絶対に音を立てるなよ! やつらが集まっちまう」
コバヤシ「(小声ながら語気強く)ホンゴウさんこそ、声が大きいですよ!」
?「やめてよーーーーーーーーっ!」
コバヤシ・ホンゴウ「!」
コバヤシの声に被さるように、遠くから誰かの絶叫がこだまする。タイミングよく大声が響いてきたため二人とも驚く。
ホンゴウ「おい・・・・・・今のは?」
コバヤシ「人の声、でしょうか?」
ホンゴウ「おそらくな。いや、あるいは・・・・・・」
ホンゴウ「・・・・・・見ろ! やつらが、・・・・・・動く!」
先ほどウロウロしていた一体のゾンビが明かりの漏れている部屋の中へと入る。それに続くように別の場所からもぞろぞろと大勢のゾンビが現れ、同じ部屋へと向かっていく。
コバヤシ「何が・・・・・・あそこで?」
ホンゴウ「今しかない。ここを出るぞ」
コバヤシ「え? で、でも・・・・・・」
ホンゴウ「ぐずぐずするな!」
ホンゴウ、扉を勢いよく開け放ち、ずんずんと進んでいく。
コバヤシ「危険ですって! 待って!」
ホンゴウ「(後ろを振り返り、手に装着している特注品のメリケンサックをアピールして)いざとなれば、コイツがある(満面の笑み)」
コバヤシ「・・・・・・」
ホンゴウ、手近な廊下にゾンビがいないことを確認する。が、例のゾンビたちが集まっている部屋に強い興味を示す。
コバヤシ「ホンゴウさん! そっちはダメです!」
ホンゴウ「お前は先に行け。俺は少し様子を伺ってみる」
コバヤシ「くっ・・・・・・! そんな・・・・・・」
コバヤシ、何もいない廊下に目をやるが、もし一人で逃げていく中でゾンビに対峙することになったら・・・・・・ということを恐れ、しぶしぶホンゴウの後をついていく。
ゴッッッシャアアァッ!
コバヤシ「い・・・・・・!」
突如として部屋の中から黒い塊が飛んでくる。それがホンゴウとコバヤシのいる廊下の壁(ホンゴウとコバヤシの目の前)にぶち当たり、はじけるような音を立てる。
コバヤシ「あ、頭・・・・・・」
壁に直撃し床に落ちたそれは、なんと人間の生首だった。
ホンゴウ「まさか・・・・・・あれは!」
部屋の中を眺めるホンゴウが言う。
コバヤシ「え?」
ホンゴウ「あいつら・・・・・・血抜きを・・・・・・。(部屋の中を)見てみろ」
コバヤシ、ホンゴウの肩越しに部屋の中を覗く。
コバヤシ「!」
部屋の中には大勢のゾンビがひしめき、うごめいている。異常に興奮しているゾンビたち。
ゾンビ料理人「オガアアア」
一際大きく特徴的なゾンビ(ゾンビ料理人)が頭のない人間の身体(服は剥かれて全裸)を逆さに持ち上げ、その頭のない首からたらいに血をしたたらせている。血が抜き終わったとみるや、無造作に人肉を床の上に放り投げる。おもむろに自身の右肩を左手でつかみ、何やら力を込め始める。次の瞬間、ゾンビ料理人の右腕が外れ、その外した腕を左手に構える。ゾンビ料理人は自分の右腕を使って、実にパワフルに人肉を叩きだす。ごす、ぶちょ、めりっと生々しい音が聞こえてくる。時折、人肉の首からぴゅうぴゅう血が吹き出る。そしてゾンビ料理人が人肉をめった打ちにしている横では、何対かのゾンビたちがおかしな加工を施された人肉を食そうとしている(口元に布が巻きつけられているため、肉に顔を擦りつけているだけ)。
ホンゴウ「そういうことか・・・・・・!」
コバヤシ「ホンゴウさん、もしかして、あいつら・・・・・・」
ホンゴウ「やつら・・・・・・人間を・・・・・・料理しているのか!」
ホンゴウ「む! どりゃっ!」
気づかぬ内に背後に迫っていたゾンビを、甲高い叫び声とともに背負い投げするホンゴウ。誤って部屋の中へと思いっきり放り投げ、ホンゴウとコバヤシはあっという間に大勢のゾンビの注意を引きつける。
コバヤシ「ちょっと!」
ホンゴウ「すまん! 逃げるぞ!」
急いで廊下へと駆け出す二人。しかしある程度走った先でゾンビの群れに追い詰められ、二人は例の部屋へと連れ戻されてしまう。

○廃墟の外(1分)

廃墟の近くまでやってきたサイトウとアリモリ。二人はしげみの中でしゃがみ、隠れながら廃墟の様子を伺っている。建物の周りでは何体かのゾンビがよろよろと徘徊している。
アリモリ「ケンジ、ここは見るからに危険だぞ」
サイトウ「こういう建物とやつらは最悪の組み合わせだからな」
?「やめてよーーーーーーーーっ!」
サイトウ・アリモリ「!」
アリモリ「今のは・・・・・・ショウタ、なのか?」
サイトウ「やっぱりここか! 行くしかねえな!」
サイトウ、勢いよく立ち上がる。
アリモリ「ダメだケンジ! よく作戦を練らないと」
サイトウ「くっ・・・・・・! ならリョウ、お前が決めてくれ。俺はその通りに動く」
アリモリ「ん? ケンジ、あれ!」
廃墟の周りにいたゾンビたちが廃墟の中へと吸い込まれるように続々と入っていく。
サイトウ「さっきの声に反応したんだな・・・・・・」
アリモリ「だとするとまずい・・・・・・。前言撤回! すぐ行こう!」
サイトウ「よっしゃ!」
廃墟へ向けて駆け出すサイトウとアリモリ。
アリモリ「いいかケンジ、いつも通りこれだけは守ってくれ。音を立てないこと。やつらに先に見つからないこと。しとめる時は、確実に頭を狙うこと」
サイトウ「ああ、わかってる」
アリモリ「それともう一つ。もしショウタが死んでいたら、いや、もし一度ショウタが死んでいたら、その時は・・・・・・」
サイトウ「・・・・・・わかってる。・・・・・・ちゃんととどめは刺す」

○廃墟(6〜7分)

廃墟の中に入るサイトウとアリモリ。二人は入ってすぐのところで、腹ばいになり、床をはって進むゾンビに出くわす。見たところ、このゾンビの足はありえない方向に折れ曲がっている。
サイトウ「・・・・・・念のためっと」
腹ばいゾンビ「ア・・・・・・」
ゾンビの頭をナイフで一突きするサイトウ。サイトウの一撃でゾンビは完全に動かなくなる。
サイトウ「出る時に邪魔になりそうだな。リョウ、ちょっとどかすの手伝ってくれ」
アリモリ「・・・・・・」
サイトウ「どうした? 早く」
アリモリ「・・・・・・俺にいい考えがある」
アリモリはそう言いながら、サイトウのナイフをひったくる。ニヤリと笑うアリモリ。
カットが切り替わり、サイトウと、ゾンビの血や肉片にまみれたアリモリが階段を上っている。
アリモリ「なんでケンジはやんないんだよ〜」
サイトウ「俺は遠慮しとくわ・・・・・・」
アリモリ「もったいないな〜。いいか、見てろよ」
階段を上りきったところで廊下の壁をトントン叩くアリモリ。近くにいたゾンビが音に反応し、アリモリの元に近寄ってくる。
ゾンビ「クアァ・・・・・・」
ゾンビはアリモリの横を通り過ぎ、きょろきょろとあたりを見回す。階段の途中に立っているサイトウを発見し、襲いかかろうとする。
ゾンビ「グガ!」
無言でゾンビの頭を叩き潰すアリモリ。ゾンビの身体が前のめりに倒れ、サイトウの上に覆い被さる。
サイトウ「うっ!」
アリモリ「ほら! やっぱ襲われない!」
サイトウ「殺るなら(先に)言ってくれ・・・・・・」
ゾンビを振り払うサイトウ。
ホンゴウ「離せっ! 離せぇ〜! ほおおおーっ!」
少し離れた場所からホンゴウの叫び声が聞こえてくる。
サイトウ「リョウ! あっちだ!」
ゾンビにずりずりと引きずられていくコバヤシとホンゴウの姿が二人の目に入る。
サイトウ「ショウターっ!」
アリモリ「ばか! ケンジ!」
三体のゾンビがサイトウの声に反応し、二人に襲いかかる(主にサイトウに)。
サイトウ「わりぃリョウ! ふっ!」
アリモリ「くっ!」
それぞれ一体ずつゾンビを倒し、残る一体は二人のコンビネーションでしとめる。
アリモリ「あの部屋、明かるい!」
サイトウ「・・・・・・なんだこれ?」
サイトウの足元に首から上だけのゾンビがいる(ゾンビ料理人に血抜きをされていた人間の頭)。サイトウはそれを部屋の中へと思い切り蹴り飛ばす。
コバヤシ「二人とも!」
サイトウ「ショウタ!」
部屋の中では大勢のゾンビがショウタとホンゴウを取り囲んでいる。ゾンビ料理人は部屋の奥で人間の足を叩き切っていた。
ゾンビ料理人「グアッ!」
新たな侵入者の存在に気づくゾンビ料理人。ゾンビ料理人の口から短い棒のようなものが突き出ている。棒の先を指でつまみ、口から取り出す。それは人間の目玉でできたキャンディだった。唾液にまみれたそれをテーブルの上に置く。
コバヤシとホンゴウを捕らえているゾンビの頭めがけて、アリモリが手裏剣を投げつける。ゾンビから解放され、サイトウとアリモリのそばに駆け寄るコバヤシとホンゴウ。
コバヤシ「リョウくん、どうしたの、その格好?」
アリモリ「ショウタこそ、何があったんだここで?」
ホンゴウ「・・・・・・やつら、人間様を弄んでるのよ。人間を料理して、食事を楽しんでやがった!」
サイトウ「それであいつらに拉致られたってわけか・・・・・・。ところであんたは?」
ホンゴウ「俺はホンゴウだ。それより今は、ここから抜け出さなくちゃな」
いつの間にかゾンビ料理人は手下のゾンビたちの口布をほどき、それを今度はテーブルマナーのナプキンのように首から垂れ下げるように巻いていく。部屋の出口からも次々と別のゾンビたちがなだれ込んでくる(ナイフやフォークを手に持ったゾンビがちらほらいる)。
ゾンビ料理人「フグウウゥッゥゥ・・・・・・。オァァアアアァアア!」
歓喜に打ち震えるような素振りを見せるゾンビ料理人。
サイトウ「ショウタ、とりあえずこれ持っとけ!」
サイトウ、コバヤシに金属バットとお鍋のふたを手渡す。
コバヤシ「うん。ありがとう!」
ゾンビが続々と四人に襲いかかる。それぞれ応戦し始める。
ホンゴウ「どぅああああああ!」
ホンゴウ、近くにいたゾンビの頭をゾンビの後ろの壁ごと破壊するような勢いで殴りつける。ゾンビの頭部はホンゴウのこぶしと壁との間で、グシャアッと砕け散ってしまう。
ホンゴウ「歯ァくいしばれやーーー!」
手近にあった包丁を手に取り、血に濡れた床の上をを軽快に滑り出すホンゴウ。
ホンゴウ「ぬははぁぁはははっはっはー!(狂ったように笑っている)」
床を滑り、包丁を振り回しながらゾンビとゾンビの間をぬうように進んでいき、次々とゾンビを始末していく。ほとばしる血しぶきとともに、ゾンビの腕や足が飛び、腐った臓物が巻き散らかされる。さらにゾンビの腹から吹き出た腸が別のゾンビの首にぐるりと巻きつく。
ホンゴウ「貴様らは、・・・・・・鮮度が、足りん! ふんぬっ!」
ホンゴウはその腸をわしづかみにし、力いっぱい引っ張る。ゾンビの頭が回転しながら豪快に跳ね飛ぶ。
ホンゴウ「なっ!」
決めポーズを取っているホンゴウを、すかさず背後のゾンビが抱き上げる。そのまま血にまみれた床の上に投げ飛ばされ、バケツリレーのように次々とゾンビの腕を伝って床を滑っていく。
ゾンビ料理人「ブアァッ!」
ホンゴウ「南無三!」
足元まで運ばれてきたホンゴウを、ゾンビ料理人が足先から順に輪切りにし始める。
ホンゴウ「がああああああああああああ!」
ホンゴウの凄まじい断末魔の叫びが響き渡る中、ゾンビ料理人は容赦なくホンゴウをスライスする。無残にもホンゴウは全身を細切れにされてしまい、ホンゴウの脳天部分、最後の一切れがくるくると回りながらサイトウとアリモリ、コバヤシの元へと滑ってゆく。仕上げとしてホンゴウの活け作りに濃厚な血のソースをかけるゾンビ料理人。
サイトウ「おいおい・・・・・・」
アリモリ「刺身・・・・・・」
ホンゴウの活け作りにたくさんのゾンビが群がり、くちゃくちゃと貪っている。
ゾンビ料理人「ホアアアアァ」
三人に対して手下のゾンビをけしかけるゾンビ料理人。コバヤシを守るような陣形で、サイトウもアリモリも難なくゾンビをなぎ倒す。
サイトウ「このままじゃラチが明かねえ! リョウ! あれを!」
アリモリ・コバヤシ「!」
アリモリ「わかった! 二人とも伏せてろよ!」
アリモリ、二人から少し距離を取り、バックパックからダイナマイトを取り出す。マッチで導火線に火をつけ、ゾンビの群れの中にそれを投げ込む。
コバヤシ「うあっ!」
コバヤシにゾンビがつかみかかり、そのままダイナマイトが投げ込まれた方へと押し倒されていく。
アリモリ「ショウタっ!」
炸裂する閃光と爆音。真っ赤な霧と煙が部屋中に立ち込める。コバヤシとその周りにいたゾンビたちはもはや跡形もない。コバヤシの鍋のふたを持った腕がスポーンとサイトウの足元に滑ってくる。天井に飛び散った血肉がボタボタと床に落ちる。爆発に巻き込まれつつも、頭部への損傷を免れた何体かのゾンビが床の上でうごめいている。
サイトウ「ショウタアアアあああァァーーーーーっ!」
錯乱し、くずおれるサイトウ。
アリモリ「ケンジ、立ってくれ! くっそおおおおおぉぉ!」
自身はゾンビに直接襲われることがないため、戦意喪失しているサイトウを守るように、ゾンビとの距離をうまく取りながら一体一体確実に倒していくアリモリ。
アリモリ「ふっ!」
アリモリ、ゾンビ料理人に手裏剣を投げつける。ゾンビ料理人はそれを手持ちの包丁によっていともたやすく弾き飛ばす。
ゾンビ料理人「ヴフウゥゥ・・・・・・!」
ゾンビ料理人、右腕を後方に引き、力をためるような構えを見せる。
アリモリ「?」
ゾンビ料理人「ヴアアッ!(殴るような動作をする)」
次の瞬間、アリモリの胸にゾンビ料理人の右腕が深々と突き刺さっている。
アリモリ「えうっ」
アリモリは大量の血を噴き出し(吐き出し、ではなく)、そのまま息絶える。よく見るとアリモリを貫いたゾンビ料理人の右腕は、アリモリの心臓を手にしている。いまだ脈打つアリモリの心臓。
ゾンビ料理人「オオオオアアオウオオ・・・・・・」
アリモリの亡骸に近づき、右腕を引き抜くゾンビ料理人。それをそのまま右肩に戻し、新鮮なアリモリの心臓を一口噛み千切る。もちゃもちゃと数回咀嚼し、食べかけのアリモリの心臓を後ろに放り投げる。ゾンビ料理人の手下のゾンビたちがそれに群がる。ゾンビたちは元々出来上がっていた人肉料理やアリモリの心臓、アリモリの死体、コバヤシの肉片などを好き勝手に貪っている(このシーンでは、ゾンビ料理人によって頭だけになった人間のゾンビも食事をしている)。どうにか立ち上がるサイトウ。そしてゾンビ料理人との切り合いが始まる。
ゾンビ料理人「ガアァッ!」
サイトウ「ぐあっ!」
ゾンビ料理人に数多の切り傷を負わせられるサイトウ。
アリモリゾンビ「アアアァ〜」
サイトウ「くぐっ・・・・・・」
今度はゾンビと化したアリモリに二の腕を噛みつかれる。
サイトウ「ふうっ。ふうぅ・・・・・・」
背中の荷物からダイナマイトを取り出す。
サイトウ「お前を料理してやる! うらああああぁぁぁ!」
ゾンビ料理人に接近し、ゾンビ料理人の胸にダイナマイトを突き刺すサイトウ。
ゾンビ料理人「ヴォアアアアアアア!」
サイトウ、ゾンビ料理人に持ち上げられ、壁まで投げ飛ばされる。
サイトウ「がっ・・・・・・」
はあはあと息を切らし、限界も近いサイトウ。
サイトウ「(ポケットから一本のマッチを取り出す)*1
だしぬけに黒焦げのスプレー缶がサイトウの元へと転がってくる。
コバヤシが落ち葉に火をつけるシーンがフラッシュバックする。
サイトウ「*2
よろよろと立ち上がり、マッチとスプレー缶を手にゾンビ料理人へと近づいていく。マッチを擦り、火をつける。スプレー缶と火のついたマッチを構えるサイトウに、たくさんのゾンビがまとわりつく。
サイトウ「喰らえええええぇぇ!」
ゾンビ料理人「ヴオオオオオオオオオオ!」
スプレー缶の火炎放射器が火を噴き、そして、ありえないぐらいに強烈でショッキングな爆発が巻き起こる・・・・・・。

爆発でホワイトアウトした後、室内全体を捉えたショットに切り替わる。辺り一面は肉片の山と血の海と化している。天井からしたたる、血と肉。四散した骨。赤黒く染まった床と壁。死屍累々で凄惨な光景の、音のない、静かなシーンが続く。しばらくした後、人間とゾンビの残骸が入り混じった塊の一部がもぞっと動き、おもむろにコバヤシがはい出てくる。
血にまみれたコバヤシの顔のアップになり、眼球だけをゆっくりと動かして部屋の惨状を見渡す(不思議そうな、怪訝な表情)。直後、コバヤシの後姿の全体が収まった俯瞰カット。コバヤシの顔のアップに戻り、視線の動きが止まる。コバヤシ、目を緩やかに大きく見開く。顔中が血で濡れている。口元まで垂れた血を、ペロッと、舌でひとなめ。


感想・要望・批評、なんでもいいのでご意見お待ちしています!!

*1:しまった! 火をつけるのを忘れてた! どうする? どうする!

*2:そうだ! これなら・・・・・・!