『ゾンビ料理人』 脚本 その2

『ゾンビ料理人』の脚本の続きです。今日の更新では、現時点でできあがっている話の中盤あたりまでを公開します。

○廃墟(1分)

眠っていたコバヤシは、突如床の上に放り出され、その衝撃で目を覚ます。ここはゾンビ料理人のアジト。コバヤシはゾンビ料理人の食材としてここまで運び込まれてきたのだった。部屋の中を見渡すと、どうやら完全に閉じ込められているのか、明かりもほとんどなく薄暗い。よく見るとひとりの人影がある。
コバヤシ「あれ? なにここ? え?」
ホンゴウ「また一人、か・・・・・・」
コバヤシ「あなたは? ここは一体・・・・・・?」
ホンゴウ「俺はホンゴウ。ホンゴウタケオだ。俺が知っているのは、ここへはあいつらに連れて来られたということだけだ」
コバヤシ「あの、ぼくはコバヤシショウタです。よろしくお願いします。すいません、あいつらとは、誰のことですか?」
ホンゴウ「わからないのか? あの忌々しい死人どもに決まってるだろうが。君はどうやってここまで連れて来られた?」
コバヤシ「わかりません・・・・・・。その、見張りをしていて、たぶん途中で寝ちゃって、そしたら、ここに・・・・・・」
ホンゴウ「よくそれで生き残ってこれたな」
コバヤシ「みんなにもよく言われます」
ホンゴウ「仲間がいるのか」
コバヤシ「はい。でも、なんであいつらはぼくたちをすぐに食べなかったんでしょうか? どういうことなんだろ・・・・・・」
ホンゴウ「それは知らん。何にせよいいようにはされないだろう。・・・・・・とにかく今は、どうやってここから出るかを考えろ」
コバヤシ「そう、ですね・・・・・・」

○しげみ、野営地(2分)

眠っているコバヤシとアリモリの元にも、何体かのゾンビが襲ってくる。サイトウはゾンビが発する物音に気付き、ぎりぎりのところで目を覚ます。
サイトウ「ん・・・・・・。あ! おい! リョウ! 起きろ!(ナイフで一体始末する) くそっ!」
アリモリ「へ・・・・・・(目をしょぼしょぼさせ)。まさか!」
サイトウ「(ショウタのことは)考えるな! まずはこいつらだ!」
ゾンビたちの口には頭を一周するように布が巻かれており、噛み付くことができず、全力で捕まえようとしてくる。しかしサイトウとアリモリは、あっさりと周りのゾンビたちを始末する。
サイトウ「なんなんだ、こいつら?」
アリモリ「ショウタ! くそっ! やっぱりまだ早かったんだ・・・・・・」
サイトウとアリモリ、コバヤシが見張りをしていた地点を見据える。金属バットとお鍋のふただけがその場に落ちている。
サイトウ「死体どころか、血の跡すらないぞ」
アリモリ「ケンジ、気付いたか?」
サイトウ「なにを?」
アリモリ「あいつらの動きに」
サイトウ「動きって、俺らを食いに来たんだろ」
アリモリ「違う。こいつらの口元を見てもわかるけど、どうも俺らを食べようって感じじゃなかった」
サイトウ「ああ、そうか。そうだった。じゃあこいつらは一体(先程倒したゾンビをナイフで指し示す)何しにきたってんだ?」
アリモリ「たぶんだけど・・・・・・、俺らをどこかに運ぼうとしていたのかも・・・・・・」
サイトウ「どうして? 何のために?」
アリモリ「さぁ・・・・・・。でも、あれ(地面を指差す)」
サイトウ「ん?」
地面にはずるずると引きずったような足跡と謎の黒い液体が残っている。
アリモリ「あれをたどって行けば、何かわかるかもね」
サイトウ「・・・・・・だな。・・・・・・ショウタ、生きてろよ・・・・・・」

○廃墟(3分)

コバヤシ、部屋に一つだけある扉を恐る恐る確かめる。扉をわずかに開き、少し離れたところにゾンビが一体ウロウロしていることを確認する。
コバヤシ「(ここから先、コバヤシはしばらく小声で)ホンゴウさん、この扉、開いてるみたいです」
ホンゴウ「空気が・・・・・・騒がしいな・・・・・・」
コバヤシ「どういう、ことですか?」
ホンゴウ「いや、な、俺の本能がざわついているだけかもしれん・・・・・・」
コバヤシ「はあ・・・・・・。それより、ちょっとこっちに来てください」
ホンゴウ「どうした!」
コバヤシと一緒になって、ホンゴウも扉の間からその先を覗く。
ホンゴウ「やはりいるか・・・・・・」
ホンゴウ「おい、絶対に音を立てるなよ! やつらが集まっちまう」
コバヤシ「(小声ながら語気強く)ホンゴウさんこそ、声が大きいですよ!」
?「やめてよーーーーーーーーっ!」
コバヤシ・ホンゴウ「!」
コバヤシの声に被さるように、遠くから誰かの絶叫がこだまする。タイミングよく大声が響いてきたため二人とも驚く。
ホンゴウ「おい・・・・・・今のは?」
コバヤシ「人の声、でしょうか?」
ホンゴウ「おそらくな。いや、あるいは・・・・・・」
ホンゴウ「・・・・・・見ろ! やつらが、・・・・・・動く!」
先ほどウロウロしていた一体のゾンビが明かりの漏れている部屋の中へと入る。それに続くように別の場所からもぞろぞろと大勢のゾンビが現れ、同じ部屋へと向かっていく。
コバヤシ「何が・・・・・・あそこで?」
ホンゴウ「今しかない。ここを出るぞ」
コバヤシ「え? で、でも・・・・・・」
ホンゴウ「ぐずぐずするな!」
ホンゴウ、扉を勢いよく開け放ち、ずんずんと進んでいく。
コバヤシ「危険ですって! 待って!」
ホンゴウ「(後ろを振り返り、手に装着している特注品のメリケンサックをアピールして)いざとなれば、コイツがある(満面の笑み)」
コバヤシ「・・・・・・」
ホンゴウ、手近な廊下にゾンビがいないことを確認する。が、例のゾンビたちが集まっている部屋に強い興味を示す。
コバヤシ「ホンゴウさん! そっちはダメです!」
ホンゴウ「お前は先に行け。俺は少し様子を伺ってみる」
コバヤシ「くっ・・・・・・! そんな・・・・・・」
コバヤシ、何もいない廊下に目をやるが、もし一人で逃げていく中でゾンビに対峙することになったら・・・・・・ということを恐れ、しぶしぶホンゴウの後を付いていく。
ゴッッッシャアアァッ!
コバヤシ「い・・・・・・!」
突如として部屋の中から黒い塊が飛んでくる。それがホンゴウとコバヤシのいる廊下の壁(ホンゴウとコバヤシの目の前)にぶち当たり、はじけるような音を立てる。
コバヤシ「あ、頭・・・・・・」
壁にぶち当たり床に落ちたそれは、なんと人間の生首だった。
ホンゴウ「まさか・・・・・・あれは!」
部屋の中を眺めるホンゴウが言う。
コバヤシ「え?」
ホンゴウ「あいつら・・・・・・血抜きをしてやがる。(部屋の中を)見てみろ」
コバヤシ、ホンゴウの肩越しに部屋の中を覗く。
コバヤシ「!」
部屋の中には大勢のゾンビがひしめき、うごめいている。異常に興奮しているゾンビたち。
ゾンビ料理人「オガアアア」
一際大きく特徴的なゾンビ(ゾンビ料理人)が頭のない人間の身体(服は剥かれて全裸)を逆さに持ち上げ、その頭のない首からたらいに血をしたたらせている。血が抜き終わったとみるや、無造作に人肉を床の上に放り投げる。おもむろに自身の右肩を左手でつかみ、何やら力を込め始める。次の瞬間、ゾンビ料理人の右腕が外れ、その外した腕を左手に構える。ゾンビ料理人は自分の右腕を使って、実にパワフルに人肉を叩きだす。ごす、ぶちょ、めりっと生々しい音が聞こえてくる。時折、人肉の首からぴゅうぴゅう血が吹き出る。そしてゾンビ料理人が人肉をめった打ちにしている横では、何対かのゾンビたちがおかしな加工を施された人肉を食そうとしている(口元に布が巻きつけられているため、肉に顔を擦り付けているだけ)。
ホンゴウ「そういうことか・・・・・・!」
コバヤシ「ホンゴウさん、もしかして、あいつら・・・・・・」
ホンゴウ「やつら・・・・・・人間を・・・・・・料理している!」
ホンゴウ「む! どりゃっ!」
気付かぬ内に背後に迫っていたゾンビを、甲高い叫び声とともに背負い投げするホンゴウ。誤って部屋の中へと思いっきり放り投げ、ホンゴウとコバヤシはあっという間に大勢のゾンビの注意を引き付ける。
コバヤシ「ちょっと!」
ホンゴウ「すまん! 逃げるぞ!」
急いで廊下へと駆け出す二人。しかしある程度走った先でゾンビの群れに追い詰められ、二人は例の部屋へと連れ戻されてしまう。